ドイツ映画鑑賞会

香川日独協会では、新たな企画として会員の皆様にドイツ文化に触れていただける機会をつくりたいと考え、今年度、ドイツ映画を鑑賞する会を企画いたしました。

香川日独協会では、新たな企画として会員の皆様にドイツ文化に触れていただける機会をつくりたいと考え、今年度、ドイツ映画を鑑賞する会を企画いたしました。多くの皆様が参加しやすいよう、クリスマスパーティを行う12月21日の午後に実施いたしました。

2019年はベルリンの壁が崩れて30年を記念する年。この頃のドイツを舞台にした映画ということで、「グッバイ、レーニン!」(2002年製作・独・121分)を鑑賞しました。ドイツ好きの私も、映画館やレンタルソフトなどでしばしばドイツ映画を鑑賞するのですが、実を言うとクリスマスの季節にちょうどいい明るく楽しい映画というのがなかなか見つかりませんでした。しかし今年はやはりこれしかないということで、「グッバイ、レーニン!」を選びました。この映画の中ではベルリンの壁が崩れた頃の東ドイツのめまぐるしい変化の様子やそれに翻弄される市民の生活、登場人物の動きがコミカルに描かれています。しかしその中で、市民の複雑な心情が(それはまさに効果的に)描かれていたことが、印象深く感じられた映画でした。

【あらすじ】

1989年、東ドイツ建国40周年記念式典を迎える東ベルリンの青年アレックス。彼の父は10年前に家族を捨て、西側に亡命した。母クリスティアーネは、その反動からますます愛国心を強めていく。
そんなある日、秘かに反体制の考えを持っていたアレックスが反政府デモに参加。警察と衝突するところを偶然目撃したクリスティアーネはショックで心臓発作を起こし、昏睡状態に陥ってしまう。その間にベルリンの壁が崩壊、アレックス一家は資本主義の波をかぶる。
8ヶ月後、クリスティアーネは奇跡的に目を覚ますが、ショックを与えると危険と医師に告げられたアレックスは、クリスティアーネを「西側」から遠ざけるために奔走する。当時のベルリンの風景や、実在の人物も描かれ、映画を彩る。

会場は、かねてより交流のあった香川大学のご厚意で、教育学部の大教室をお借りすることができました。また、ベルリンで長く医師として医療に携わってこられていたベルリン独日協会理事の溝延輝恵様から、当時のことを思い出してのエッセイをいただき、添付資料としてお配りしました(次頁に掲載)。溝延様は2016年春にドイツからベルリン独日協会の皆様とともに香川県においでになり、香川日独協会の会員の皆様と春の栗林公園の散策を楽しむ機会があったご縁があります。今回の行事にあたりこの企画についてお伝えすると、快くご執筆くださいました。香川大学関係者の皆様、溝延輝恵様に深く感謝申し上げます。(文責・玉垣)


ベルリンの壁が落ちた日

独日協会ベルリン 理事 溝延輝恵

30年昔を思い出して。

1989年11月9日、壁が落ちた日は⼀⽣忘れられません。私の診療所は⻄ベルリンに位置していましたが、丁度東独との境目の地区 “Rudow” にありました。⾃宅が Charlottenburg にあり、毎朝早く、その日の交通状態により30分〜1時間半ほどかけて⾞で通勤していました。その翌朝、いつものように朝早く家を出発し、最初の曲がり角を左折すると、そこに広がる異様な雰囲気にびっくり仰天︕クーダム通りに Trabi (東独製造の⼩さな⾞)がゾロゾロ、ゾロゾロと⽴ち並び、その窓からポンポンと Sekt の栓を飛ばしながら動いているではありませんか。そこで慌ててつけたラジオを聞き、私ははじめて壁が落ちた事を知りました。

それから⻄ベルリンには毎日続々と東独⼈が訪れるようになりました。また、⻄ドイツ政府が⻄ドイツを訪問する東独⼈に⼀⼈あたり100DMの Begrüßungsgeld を支給する事を決定した為、診療所向かいの Sparkasse の前に⻑い⻑い東独⼈の⾏列が出来ました。そこであまりにも待つ時間が⻑くて倒れる⼈も出て、私は診療所を飛び出し応急⼿当に追われる日もありました。100DM の支給を受けた東独⼈は今まで東独では全然⼿に入れることができなかった商品のお買い物に陶酔しました。診療所の隣に Aldi スーパーマーケットがあり、 Sparkasse に並んだほとんどの⼈がその後 Aldi に直⾏しました。しばらくすると Sparkasse から現⾦がなくなり、銀⾏員が Aldiにお⾦を借りに⾏くという異常事態が起きたほどでした。

私は当時まだ⼩さかった息子と⼀緒に Brandenburg門に向かい、鎚 (つち)と鑿(のみ)を使って時間の許せるかぎりトントンコツコツと壁を壊し、その破⽚を宝物の様に⼤切に持って帰りました。身動きがとれないほど満員の S-Bahn も幸せな笑顔ばかり。私も幸せでした。

さて、時は流れつい最近。物置に保管してあった壁の破⽚の入っている袋から何となく悪臭が発⽣している気がして、夫がその袋を地下室に移しました。近々息子に電話してどうすれば良いか相談する予定です。

あの条件なしの幸せだった時からあっという間に30年が経ち、ベルリンの壁は無くなりましたがドイツ⼈の Wessi と Ossi がそれぞれ⼼の中に持っている⾒えない壁はまだしつこく残っているのではないでしょうか︖